一般の人には難解な脳と心の問題を、「クオリア(感覚質)」という言葉をキーワードとして、私たちに分かりやすく解説してくれる脳科学者・茂木健一郎さん。各界から注目されている茂木さんが、リラックスタイムに聴く音楽を公開してくれました。
茂木健一郎さんが選んだオススメの1枚はブライアン・イーノ「By this river」
ブライアン・イーノ「By this river」

フィル・コリンズ(元ジェネシス)やロバート・フリップ(元キング・クリムゾン)らが参加したアルバム。ロック志向の音楽・前半6曲とアンビエントミュージック(環境音楽)・後半4曲の全10曲を収録。

「隙間の時間」に音楽を聴き、お茶を飲む
「リラックスする」とは、日常の中で「隙間」を持つことだと思います。そういう「隙間の時間」に、僕は音楽を聴いたりお茶を飲んだりする。逆に、仕事をするときは音楽を一切聴きません。「隙間の時間」に音楽をかけるというのは、たとえば、洗面所で歯を磨いているときや、シャワーを浴びているときなどに「空間に音楽を漂わせておくこと」かな。シャワーに入る前に流れていた音楽の続きが、シャワーを出た後にもかかっているというのが僕にとってのベスト。あとは、音楽を聴きながら寝て、朝になったらその音楽が止んでいるというのもいいですね。

あえてアーティストを知らずに楽曲を楽しむ
寝る前によく聴く曲の一つがイチオシ曲であげたブライアン・イーノの「By this river」。この曲は出張のときなどにもよく聴きます。でも、ブライアン・イーノに関して詳しくは知りません。彼や彼の音楽については、おそらく多くの方がリスペクトしているでしょうし、イーノに関する情報もたくさんあるでしょう。でも、僕はそれらの情報には触れることなく、純粋にイーノの楽曲を楽しんでいます。そんなふうに、僕はあえてリサーチしないものがあるんですよね。なぜリサーチしないのかは、自分でもよくわからないのですが……。

お茶も音楽と一緒で、楽しむのは「隙間の時間」です。移動中に道ばたの自販機で買って飲む。仕事と仕事の合間に飲む。寝る前に飲む。イギリスでは、誰かと話(議論)をしたいときにはお茶に誘う習慣があるんです。なぜなら、わざわざ議論するだけの時間を割くことはスマートじゃないから。

このようなセンスは、日本にもあると思うんです。誰かが家にくれば、自然とお茶を出しますよね。その行為によって、お互いに余裕が生まれるし、リズムもできます。人間の脳は、こうした日常のリズムが大切で、リズムが狂えば新しいものは生まれてきません。そこが脳とコンピューターとの大きな違いでもあるんです。コンピューターにも動作のリズムを整えるクロックというものがありますが、それはあくまでも単純なリズムに対応しています。脳のリズムは、もっと複雑なのです。こう考えてみると、リズムをつくるために音楽も存在するしお茶も存在する、といえるかもしれません。
日本で唯一の「ひらめき文化」は俳句をひねること!?
茂木健一郎さん
ところで、「お~いお茶」のペットボトルに書かれている俳句はおもしろいですよね。毎回楽しく拝見させていただいてます。僕は、「ひらめき」とか「創造性」に興味があります。たとえば、単独だと意味が不明だけど、ヒントを与えると意味がわかる「アハ・センテンス」というものがあります。ひらめきを重視する点で、俳句はそれに近いものがあるんですよね。日本人は創造性がないとよく言われますが、そういう意味でも、日本で唯一、広まっている「ひらめきの文化」というのが「俳句」だと感じるんです。

昔、お茶は急須で入れて、家族や親類と一緒に飲むものとして定着していました。でもペットボトルが登場してから、個人でお茶を飲む文化というのが発達してきたと感じています。このお茶の飲み方・楽しみ方の変化は重要だと思いますね。僕は仕事柄、人がたくさんいる場所に足を運ぶことが多いのですが、そうなると1人の時間がとても貴重になります。酔い覚ましにガブガブ飲めるものとしても重宝しているお茶ですが、1人になったとき、音楽を聴きながらお茶を飲んでリラックスする時間は、僕にとって本当に大切なものとなっています。
茂木さんがさら選んだオススメの2枚
kohala「Honolulu city lights」(アルバム『kohala』より)

ハワイ出身のアコーステックギター・トリオのデビューアルバム。kohalaが人気を得るきっかけとなった作品。ナチュラルで開放的なギター・サウンドが楽しめる。

Kohalaの曲の中でもとりわけ「Honolulu city lights」が好きです。この曲を聴くたびにホノルルの夜にほんのりと浮かぶ街の灯りを思い出しますね。東京にいると、ときどき南国が恋しくなるんです。そんなとき部屋の中に「南の風を吹かせよう」と、ハワイや沖縄の曲をかけますね。

グレン・グールド『バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年デジタル録音)』

不眠症の伯爵のためにバッハが作曲した変奏曲。このアルバムは伝説の名ピアニスト・グレン・グールドによる演奏を収録。

僕は一時期、よくグレン・グールドを聴いていたのですが、彼が晩年に弾いた「ゴールドベルク変奏曲」は特に傑作で、すでに何百回も聴いています。クラシックは小学校低学年から親しみ続けている音楽ですね。モーツァルトやバッハは老若男女誰でも理解できる普遍性があると思います。
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